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会報
第46号
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国際シンポジウム

日本と〈異国〉の合戦と文学
報告 博士後期課程2年 杉山 和也

 二〇一一年一二月三日(土)、本学日本文学科主催の国際シンポジウムが開催された。まずは、司会の佐伯眞一氏が企画趣旨を述べられた。従来、日本の軍記物語は日本国内の戦争のみを描いていると言われてきた。そして、それは異民族との戦いを多く経験してきた諸外国と異なる、日本文化の特徴であるとも考えられてきた。こうした認識には確かに正当な面がある。しかし、日本人は古来、戦いという物を国内のみにおいて考えてきた訳ではない。そもそも、前近代においては、日本列島全てが「日本国内」であった訳ではなく、列島内の〈異国〉との戦いについて様々な認識があり、またこれに基づいて近世には琉球や朝鮮半島との戦いに関する多様な文学が生まれた。日本人にとって〈異国〉とはどのようなものか。〈異国〉との戦いを描く文献は、軍記物語とどのように重なり、どうずれるのか。問題提起が為された。目黒将史氏「琉球侵略の歴史叙述─日本の対外意識と〈薩琉軍記〉─」は、慶長十四年(一六〇九)の薩摩による琉球侵攻に基づきつつ、架空の合戦を描き出す、薩琉軍記と呼ばれるテキスト群を取り上げ、ここから看取される近世中後期の日本における琉球に対する認識の様相を示された。
 徳竹由明氏「敗将の異域渡航伝承を巡って─朝夷名義秀・源義経のことなど─」は、軍記物語などに登場する敗将が、実は死なずに異国や異域へ逃亡したとする伝承である、朝夷名義秀の高麗渡航伝承と、源義経の蝦夷渡航伝承をそれぞれ整理され、その中世、近世における展開の諸相を示された。
 松本真輔氏「古代・中世における仮想敵国としての新羅」は、まず『日本書紀』を中心に上代の文献に見える新羅に関する記述を確認。またこれと併せて朝鮮半島側の資料である『三国遺事』も参照し、日本側と朝鮮半島側それぞれの双方に対する認識の様相を探られた。続いて、「聖徳太子伝」とその絵画資料を中心に、中世の諸資料に見られる新羅に対する認識の在り方を整理された。
 金時徳氏「朝鮮軍記物の近代─活字化、再興記、太閤記─」は、豊臣秀吉の生涯を描いた「太閤物」と、秀吉の壬辰戦争(文禄・慶長の役)を扱った「朝鮮軍記物」の近代における諸作品を分類し、その展開を整理された。
 その後の討論も、牧野淳司氏、大屋多詠子氏をコメンテーターに迎えつつ活発に為された。本シンポジウムで取り扱われた薩琉軍記や朝鮮軍記物といった作品群は、中世的な問題を孕むも、成立は近世。近世の作品が「軍記物語」との関連で語られたことも従来ほとんどないため、近世を専門とする研究者から、時代別の文学研究の枠組みを越えて議論が為されたことは意義深かった。更に会場からは、ベトナムにおいても蒙古襲来ということが起きており、それに関わる言説と、日本におけるそれとの比較を東アジアの問題として検討する必要があると、日本という枠組みを越えて研究を進める必要性について指摘も出された。敗将の異域渡航伝承さながらに、時代と空間とを越えた研究の在り方が本シンポジウムを通して示され、実に有意義な機会であったように思う。


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