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会報
第46号
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卒業生の近況

心泰身寧是帰処
仁科 和子

 地方公務員として働き始め、10年目となりました。1年目は市民課で窓口業務をしました。2年目は秘書課へ異動、助役から市長付き秘書として、スケジュール管理や要人対応を主に行っていました。そして、6年目からは教育委員会に移り、現在は生涯教育部門を担当しています。たとえば子育て世代の保護者を対象に啓発セミナーを企画したり、団塊世代向けの生涯教育講座を運営したりしています。その間、アメリカにある姉妹都市に、中高生交流事業の引率として渡米もしました。
 公務員は、正直なところ目指していませんでした。ただ、地元の市役所だけは両親の勧めで受験した結果、合格しました。私は大学院に進学したいとも考えていたので、先に内定をいただいていた一般企業も含め、就職か進学か、冬までずっと悩んでいました。最終的には、社会人としても女性としても自立を望む両親の強い希望があったことから、公務員という職を選びました。
 学生時分を振り返ると、今はもうない厚木キャンパスまで往復5時間かけて通っていました。朝も帰りも電車を逃すまいと走っていく私を、友人はよく笑ったものです。大変ではありましたが、好きなだけ本が読めることや、同じように好きなことについて語りあえる友人達ができたことが喜びでした。青山キャンパスに移ると、いよいよ東京暮らしとなり、人の多さに辟易としながらも、表参道の街並みの中を通学することが楽し みでした。
 ゼミでは漢文学、卒論は白居易をテーマに選び、大上先生には随分とお世話になりました。3年までは、日本語教育も学びたいと思っていたので、山下先生にもお世話になりました。日文なのに漢文学なの? と言われるのですが、漢詩を白文で読めたらいいなと憧れ、大上先生にも助けられて、充実した学習ができたと思っています。ほかにも、上代から現代、日本語学など、学びたいと思えばいつでもこたえてくださる先生方がいらっしゃったことが、とても恵まれた環境だったと思います。
 話をまた就職に少し戻しますが、よく「公務員になるにはどうしたらいいか」と、尋ねられます。公務員試験問題集を解くのはもちろん有効ですが、それ以上に、私は学生生活を充実したものにしてもらえればいいのではと思います。そして、学生時代に一番頑張ったことは、やはり学業であって欲しいです。社会に出てからも、絶えず学ばなければいけないことはありますが、自分が興味をもって好きなだけ好きなことを学べる、考えられる時間はそうありません。ぜひ、その貴重な時間を意識して過ごして欲しいです。
 最後に、日文で素晴らしい先生方から学べたこと、生涯を通じて話し合える大切な友人達が出来たことが、私の誇りです。いつまでも、また誰もが同じように経験できる日文であってほしいと願ってやみません。
(二〇〇二年卒業)


出版に携わることについて
酒井 美文

 今年、ついに三十路……而立の歳に突入しました。自立の歳であるこのタイミングに、このような機会をいただくとは……。すでに華やかな大学生活は忘却の彼方。「卒業式……したっけか?」と、「卒業生失格」のレッテルを貼られてもおかしくない私に、こうして社会人としての己を振り返る機会を与えてくださったことに、心から感謝です。
 今回の御題に関して、出版系に勤務している者として、まだ未熟ではありますが、仕事の印象などをお話したいと思います。
 出版関係に興味がある皆さんは、文章を書くことが好きですか?
 私自身の回答は、多分(間違いなく?)、好きです。そしてこれが出版関係に携わるうえで、最も大切なことの一つだと思います。なぜならこの「好き・嫌い」という人間の根本的な感情が密接に関わる仕事、その代表が出版系だと肌で感じるからです。
 私の経歴は、卒業後に編集プロダクションへ入社、昔から好きだった漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」関連の記事やファンブック、ゲームの攻略本などを制作してきました。昨年、丸6年勤めた会社を辞め、現在は父の出版社で働いています。もちろん出版関係といっても仕事は幅広く、自分で記事を書くライティングから、各所に発注して一冊の本を作り上げる編集業務、次なる一手となる企画作成など……携わるジャンルによって作り方も環境も様々。でも総じて言えることは「何を作りたいか」を明確に考えることを要求される、非常にクリエイティブな仕事であるということです。
 よく「趣味を仕事に選びたい」という意見を聞きますが、出版関係はむしろ「仕事が趣味になる」くらいに考えないと、本当に楽しいディープな出版ワールドは覗けないかもしれません。それほどこの仕事は、趣味や仕事をきっちり分けることが難しいんです。たとえば映画鑑賞にしても旅行にしても、趣味で得た経験が、直接的にしろ間接的にしろ、企画やアイデア出しのきっかけになります。言わば、人生すべてが仕事に活きてくるのです。机にかじりついても案は出ないけれど、趣味を楽しむうちに、日常の中に発想のヒントがたくさん散らばっていることに気づかされます。「ライフワーク」という言葉は気負ってしまう印象ですが、「仕事は趣味の延長線上にある」くらいの心持ちでいたいものです。
 しかもそれは、本に携わること、文章を書くことが好きという気持ちがあるから続けられること。文章の得手不得手は技術を学べば済むことなので問題ではなく、ただ文章を書くことが好きで、苦でなければ全然OK!◯そういう方にとって、これほど楽しい仕事はないと思います。企画が通れば作りたい記事や本を出せるし、憧れの作家や芸能人に会えるかもしれない。取材で好きな土地に行けるかもしれないし、インタビューで違う人生観に触れられるかもしれない。人とのつながりで新たな興味が広がれば、仕事のみならず自分の人生そのものがどんどん楽しくなることを実感できるはずです。
 だから出版関係へ進むべきかを迷っていたらたった一つ、シンプルな質問を心に問いかけてみるといいと思います。YESと答えを出せる自分に気づくことができれば、きっとその先に見えてくるものがあるはずですから。
 「文章を書くことは好きですか?」
(二〇〇四年卒業)


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