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会報
第44号
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日本文学会春季大会
講演:池田和臣先生(中央大学文学部教授)


「文献研究の面白さ─古写本・古筆本に触れる─」
博士前期課程1年 和泉 文香

近年、文学において様々な研究方法が試みられている。アプローチの細分化によって研究に奥行きができたが、一方でそれぞれの分野を仕切る壁が分厚く感じられることがある。池田先生は「文献研究の面白さ─古写本・古筆本に触れる─」と題された講演の中で、「読み」に関する研究方法の深化に大きく貢献した活字本には、足りない側面があることを指摘された。数々の写本が活字化されて読みやすくなったことで、研究の幅は広がり豊かになったが、本文の解釈だけに終始する研究は作品内部に閉じこもりがちとなる。写本そのものに目を向けることも研究には欠かせない。その方法のひとつとしての文献研究の面白さを、今回は最新の研究も交えてお話しくださった。
講演は大きく二部構成になっていた。まず『源氏物語』の別本についてのお話があった。既に知られているように『源氏物語』には大別して三系統の写本がある。平安時代における物語の地位は低く、書写態度は厳密ではなかった。およそ今では考えられないことだが、増補や改変が書写の段階で当然のように行われていて、それは『源氏物語』の場合も例外ではなかった。三系統の写本の内、別本と総称される写本のいくつかは藤原定家の校訂した青表紙本より以前の『源氏物語』の本文を伝えている可能性があるということで、期待を集めている。しかし古態を留めているとはいえ、それが直接原作に結びつくわけではない。当時の書写態度、状況による別本の性格をしっかり理解してほしいということと、『源氏物語』本文の系統を整理していく上での別本の意義について、例を挙げながら話された。
二つ目の話題は、先生が入手された二葉の古筆切の最新研究成果についてだった。物語の古筆切は通常『源氏物語』や『伊勢物語』などである場合が多いと言う。しかしその二葉はそれらの断簡ではなく、更に現存する物語に該当するものがなかった。そこで、先生が散佚物語ではないかとの可能性を求め調査されたところ、古本『巣守』という『源氏物語』の現行五十四帖以外の巻である可能性が高まったという。散佚物語や散佚巻は物語の注釈書などでその失われた姿の一端を知ることができる。断簡を翻刻し、注釈書などに残る物語の断片から、未知の作品を再構築していく作業は、困難だが心が惹かれる。胸が躍るような、意義のある講演だった。


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