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会報
第44号
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巻頭随筆

日本文学語学研究の未来予測
日本文学科主任 近藤 泰弘

日本文学語学研究の未来を予測するという困難な問題に挑んでみよう。未来を予測するには、過去を振り返らなければならない。日本文学語学研究の歴史を振り返ると、次のような四つの時期に分かれると、まずおおざっぱな見通しをたてる。
第一期は、研究と実作とが分離していない時代である。例えば、藤原定家の古典研究に代表されるものであり、専門の研究者というものはいなかった。近世までは、基本的にそういう時代だっただろう。研究と実作は一体のものであり、秘伝や作法という形で研究成果は伝授された。伝授こそが研究だった。次の第二期は、近世になり、印刷による出版事業が起こり、作者と読者が分離され、同時にまた学問が伝授から独立することで、語学・文学の研究者と言える層が育っていった時代である。この時代の代表といえば、本居宣長ということになるだろう。宣長は確かに和歌も作ったが、やはり研究者であった。次の第三期は、いうまでもなく明治時代だ。政府の方針により、国家の、〈国民文学〉と〈国語〉とが必要とされ、それを新たに構築するための学問として、〈国文学〉と〈国語学〉という学問体系も構築された。その方法論は第二期のものを基盤としているが、それに欧州の学問体系を接木する形で作られた。この第三期が、現在我々が知っている文学語学研究のスタイルを決定づけたものである。さて、そして第四期は第二次大戦後となる。新制大学が多く設置され、また一般教養としての文学研究という考え方もアメリカから輸入された。そこで、その受け皿として、また、研究者養成機関としての文学部がどの大学にも作られることになった。第四期には、国家のアイデンティティ構築というかつての目標は不要になっていたが、現実の需要に駆動されて研究は大きく進展した。そして、二十一世紀となり、時代は第五期に変化したという認識を私は持っている。第四期から第五期への変化は、第一期から第二期への変化のちょうど逆になっていると考えられる。インターネットの興隆により、従来型の出版事業がその存在基盤を失おうとしている。つまり、一般の人が自分の日記や詩や評論を、また、絵や写真や動画や音楽をネットに公開することができるし、それに対してよいものならばアクセスが増大して評価される。これは、誰もが自ら写本として作品を発表できた中世以前と同じような環境に戻りつつあるものだと思う。しかもそれは一般庶民レベルで、かつ、世界規模のものだ。全世界的に、作者と読者、出版者と購読者の区別が再度失われつつある時代だと言える。以上から推測される第五期の文学語学研究は、次のようなものになっていくだろう。

  1. 第三期・第四期にあった文学語学研究の自己完結的目標が完全に喪失する。
  2. 第一期にあった、表現のための文学語学研究という目標が再評価される。
  3. 自己表現をするためのノウハウ(秘伝)を自ら開発し、それを、電子媒体によってコミュニケート(伝授)していくことが研究の中心となる。

以上が、文学語学研究の歴史から見た未来予測である。これからの文学語学研究は、広義の自己表現の方法を人間の心や感情の面から理論的に探究することに主眼が置かれるのではないだろうか。もちろん、予測は予測、当たらなくてもかまわない。しかし、このような問題設定と考察は今後必要だと考えている。


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