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会報
第42号
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夏期集中講座
講師:緑川 眞知子氏


「和をもって尊ぶべし」

翻訳された作品を読んでいて、違和感を覚えた経験はないだろうか。登場人物の名前が代名詞を用いずに繰り返されていたり、文末表現が単調だったり……。異なる言語間の翻訳、特に文学作品の翻訳は、一語一語が作品世界を形作っているため、非常に高度で繊細な作業が要求される。今夏の講義では、日本文学の翻訳と研究について、『源氏物語』の英訳を手がかりに学びを深めた。

『源氏物語』の英訳は、多くの翻訳者によって為されており、年代にも幅がある。世界で最初の英訳を書いたのは、明治時代の政治家、末松謙澄であった。初の翻訳に、日本の文化を世界に知らしめる、という政治的な意図があったことは興味深い。文化による働きかけが有効な手段であることは、韓流ドラマによる近年の韓国熱の例にも見られる。

幾人かの英訳を比較すると、その差異の大きさに驚く。目を引くのは日本語や平安文化の研究が反映されている箇所である。例えば、冒頭「女御更衣」の訳。アーサー・ウェイリー(一九二五〜一九三三訳)が、天皇の衣装、私室の世話係という職務として訳しているのに対し、ロイヤル・タイラー(二〇〇一訳)は、天皇の配偶者、懇意の者と訳し、天皇との近しさという本質を表している。

また、タイラーは、物語の語り手を光源氏の側の女房であるとし、光源氏側の登場人物を「His〜」と訳している。複雑な呼称を、語り手の視点で捉えていく手法には、「物語り」の性質がよく表れている。

感動的なのは和歌の英訳である。五七五という音の制約を、タイラーは英語においても表現している。「ふるさとを/いづれのはるか/ゆきて見ん」「O when will I go, / in what spring, to look upon / the place I was born?」。英語の母音を意識して読むと、五七五のリズムに則っていることが実感できる。

翻訳は異文化理解の上に立ち、元の文化の本質や、新たな言語表現の可能性を示唆してくれる。講義を通して、そのような翻訳の魅力に触れることができた。

3年B組 平泉 花菜
(講義名・源氏物語の英訳)

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