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会報
第42号
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日本文学会春季大会
講演:市川 團十郎先生(歌舞伎俳優)


「歌舞伎の伝統と創造」
博士前期課程一年 岡島 由香

十二代目市川團十郎先生をお招きして、「歌舞伎の伝統と創造」についての講演が行われた。團十郎先生にお会いする以前は、華があり、風格のある方だというイメージを持っていたが、お会いした後もイメージ通り、朗らかで人を惹きつける、魅力ある方であった。

團十郎先生は、日本が世界に誇る日本の伝統・伝統芸能を背負っているのは私たちの側であるとおっしゃった。歌舞伎においても、演じている側ではなく、観ている側が文化を支えていくのだという。興味を多く持つ人が増えることが、伝統を作っていくことにつながるのである。そして、パリのオペラ座ガルニエでの今春のパリ公演は、その場所で歌舞伎をやることの意義である、グローバル化の中で、日本の文化に誇りを持ち、文化の多様化の必要性も強調された。では、なぜ多様化が必要か。それは江戸時代に熟成された歌舞伎の歴史を、またその頃に持っていた日本人の感性を伝えることが大切であり、日本の歴史、日本の文化には知恵があるということを伝えること、そして自分の意志を伝えることにもつながってくるからだという。

「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」という言葉を例に挙げられた。人間関係の縁の深さを述べているのであるが、江戸時代の人はこのようなことを基盤に考えていたということが分かり、これは歌舞伎の演目にも多く含まれているという。 バレエ、オペラ以外の演目が上演されることはめったにないパリの歴史と伝統あるオペラ座ガルニエで、初めて歌舞伎公演が行われ、上演された『勧進帳』『紅葉狩』『口上』の演目についても説明してくださった。

『勧進帳』には人間の機微、在り方が含まれており、『口上』は日本独特の演技形態で、フランス語で行った。『紅葉狩』は唄と踊りを主体とする舞台で、重厚な演目である。この三つは意外にもパリとの共通点があり、特に、武士道や精神がそうである。しかし、大きく異なる点は、日本とは違いパリのオペラ座には花道がない。そのため、迫力ある六方という歩き方で引っ込むための花道を、舞台の上手から下手に向かうという演出にされたそうだが、試行錯誤を重ねての結果だという。他になんばというエネルギーを使わず歩ける歩き方で、右足が出て、右手が同時に出る、昔の日本人の歩き方も紹介してくださった。

また、文化の発展の町となった新富町では、明治時代、新富座という劇場で初めてガス灯の照明を使ってお芝居をした。このことを踏まえて、明治の明かりをイメージし演出面を工夫したという。 最後に、九月の国際シンポジウムについての内容もご説明してくださった。そこでは普段聞けないお話が聞け、若い世代も歌舞伎を見る機会をさらに持つことにつながるだろう。

講演後、学生からの質問にも的確なお答えをいただき、大変勉強になることばかりであった。会場を笑いで包み、終始和やかな雰囲気で、国際的になるために、まず、自国の文化を充分知っておく必要があると気づかされるご講演であった。

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