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会報
第43号
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「青山学院大学 読書教養講座 公開授業」報告

井上ひさしを支える菊池寛の世界
2B 赤木 雄太

昨年の10月25日に井上ひさしさんの講演会が青学講堂にて行われた。会場には約1200人近くの聴衆が集まり大盛況であった。授業の一環として行われた講演会なのだが、学生の数もさることながら、年配の方の姿もかなり目立っていて、氏の人気を物語っていた。
井上さんは壇上に上がると、笑いを交えた非常に気さくな語り口で、全世代の聴衆を虜にしていた。彼の話した内容はと言えば、主に菊池寛の生き様についてである。
最初に井上さんはご自身の読まれた「東京行進曲」のあらすじを持ち出し菊池寛の小説の面白さを分かりやすく伝えてくださった。自分を現実とは別の世界に連れて行ってくれるような、わくわくする本が好きであると、氏は子供のように楽しそうな顔で語っていた。
現代もてはやされている小説は、読むと気が滅入るあまり前向きでないものが多いが、菊池寛の小説はそうではない。彼が書く小説はとにかく面白い。彼の作品は読む人たちを元気にし、沈みかけた心を救い上げ、働く人々に与えられる極上のエンターテインメントとしての作品であった。彼は小説でお金を稼いで、いい人・頑張る人を支える文化人として生きた。小説家を養成し、麻雀や競馬、将棋に社交ダンスなどの様々な娯楽を一般民衆にもたらした。「もっと楽しく生きようと」社会に訴え続けた作家である。
井上さんは終始それは楽しそうに菊池寛について語っていた。集まった人々の心は氏を中心に一つとなり、みな明るい面持ちで耳を傾けていた。
私自身、現代に氾濫している小説は多少なり読むのであるが、どこか物足りなさを感じている。読んでいるときは確かに言葉の羅列を音楽のように楽しんでいられるのだが、読み終わったあと「…それで?」という、何か満たされない、小説とともに過ごした時間が自分の中に生きていない、そんな感覚に陥ることが多い。これは私の読書量が単純に少ない可能性も大いにあるので一概には言えないのだが、不躾な言い方かもしれないが、いわゆる教科書に載るような作家の作品には何か私の心を掴んで離さない魔力のようなものを感じるときがある。夏目漱石の「こころ」や、武者小路実篤の「友情」などを読んだ時間は、私の記憶から拭い去れない記憶として残っている。

私にとって今回の講演は、名前を聞きかじった程度の作家であった菊池寛を、井上ひさしと言う現代に生きる文化人の中に再発見するいい機会であった。今後菊池寛の小説を読んで、楽しく人生を生きることができたとしたら、今回この記事を担当する事になった奇跡に感謝したいと思う。

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