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会報
第43号
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巻頭随筆

今や千載一遇のチャンスである
青山学院大学日本文学会会長 安田 尚道

日文関係者にとって、今や千載一遇(センザイイチグウ=一千年に一度出会えるかどうか)のチャンスである。古本の値段がバカ安いのである。
アメリカ経済に急ブレーキがかかったこととは関係なく、もう数年前からのことであるが、日文関係の古本、特に全集物の値段がバカ安い。学生諸君は昔の、もっとずっと高かった時代のことを知らないから、ピンと来ないかも知れないが、今は本当に安い。
実は、日文(国語国文)関係の古本の値段は、時代によってかなり変動が激しい。六十数年前の敗戦直後は、それまでの“日本精神”が重んじられたことの反動で、ガタンと下ったという。
今は、「国際化」の波のせいかどうか知らないが、“日本的なもの”についてのものは人気がないらしい。しかし、国際化というのは、“日本人が日本人的でなくなること”を意味するのではなく、“自分が日本人であることを自覚しつつ外国人と渡り合うこと”が真の国際化であろう。
そのためには、我が日本文学科の授業で扱っているようなことがらをしっかり身につけ、それぞれ自己のアイデンティティーを確立してほしい。日本文学科では、日本人が日本人であるための基盤を勉強しているのである。
外国へ行った日本の商社マンがパーティーなどで、日本の古典文学について説明を求められて往生した、というような話を時々聞く。これからは、ただ儲ければよい、という時代ではないのである。
日本にはたくさんの大学、たくさんの学部、たくさんの学科があるが、そのうちで日本文化に深く関わるのは、日本文学科(国語国文学科)と日本史学科(国史学科)ぐらいしかない。文学部でも、その他の学科はおもに外国のことしか扱わない──その典型は旧帝大系の大学における「哲学科」である。看板は「哲学科」だが、その中身は「西洋哲学科」であって、日本や東洋の思想・哲学はほかでやってくれ、というのである。日文関係者や日本史関係者は頑張らなくてはいけない。
政府の役人や「識者」と言われる人々は、しばしば「諸外国では……」という言い方をする。「外国にあるから日本にも作らなければいけない。」「外国では無くなったから、日本でも無くさなければいけない。」この論法で、東京の都電をはじめとして、仙台・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡などの路面電車が廃止されて、どの都市も自動車の洪水になってしまった。実はヨーロッパでは多くの都市で路面電車がずっと走り続けているのであるが、お役人や識者には見えなかったらしい。そして今、日本の各地で路面電車の復活・拡張が検討されるようになってきた。「諸外国では……」と切り出す人たちの事実認識自体が間違っていたのである。この手の人々に騙されてはいけない。事実は自分の目で確かめなければいけない。日本にとって何が必要か、日本人にとって何が必要かを、「諸外国」を基準にするのではなく、我々自身で考えなければいけない。
話を本にもどそう。日文関係者が頑張るためには本をたくさん読まなければならない。もちろん研究室や図書館にはたくさんの本があるが、ちょっと本気で勉強しようとすると、自分の学校だけでは本が足りないことがわかるはずだ。そういう時は、よその大学の図書館を利用させてもらう、というのも一つの方法だが、自分で買うということも考えるべきであろう。
そこで古本屋である。古本屋というと古い本しか扱っていないと思われがちだが、実はそうではない。新刊本が定価よりも安く手に入ることもしばしばである。そして、ともかく今は古本が安い。実際に古本街におもむいて、それを実感してほしい。
古本屋は渋谷キャンパス周辺や渋谷駅周辺にもあるが(但し、淵野辺には皆無)、なんと言っても神保町である。その神保町へは青山キャンパスから地下鉄でわずか十数分で行けるのである。そこで芥川や漱石の数十冊の全集を手に取って見てほしい。そして割り算をして、一冊あたりいかに安いかを実感してほしい。あの『日本国語大辞典』(旧版、全二〇冊)も三万円で買える。岩波書店の『日本古典文学大系』(旧版、赤い表紙)の一〇〇冊揃いをほんの三、四万円で買った人もいるという。
こんなバカ安値がいつまでも続くわけがない。今のうち買っておかないと、きっとあとで後悔することになろう。

さあ、海外旅行の予約をキャンセルして神保町へ出かけよう!

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