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研究余滴

ミニ授業です。

語構成の知識を生かした語彙学習
山下喜代(日本語教育学)

  言語学習においては、語彙の知識を増やすことが重要なことは言うまでもありません。英語学習でも単語を覚えるために、単語カードを作って暗記に努めたり、何度もノートに書いてみたりと様々な工夫をするでしょう。また、英文を読んでいて分からない単語(未知語)に出会ったときは、辞書で調べるなどの方法をとります。このように、学習を進める上での様々な方法や工夫を「学習ストラテジー」と呼びます。ここでは、言語学習ストラテジーの例として、「未知語の意味を推測する」ストラテジーの一つを取り上げます。それは、「語を語基と接辞に分析する」というストラテジーです。しかし、このストラテジーを用いるためには、語構成についての多少の知識が必要となります。

  ストラテジーの話を進める前に、いくつかの言葉について説明しておきましょう。 語を分析して得られる、意味を表す最小の言語単位を「形態素」と呼びます。つまり、「語を語基と接辞に分析する」ストラテジーの「語基と接辞」は、共に形態素ということになります。そして「語基」は、語の中心的な意味を表し、単独で語になったり、語の構成要素になったりします。「海(うみ)・熱(ねつ)・カップ」のように一つの語基からなる「単純語」と、「川岸・持ち帰り・海岸・ゲームセット」のように複数の語基からなる「複合語」があります。また「接辞」は、つねに他の語基と結びついて語を構成し、語基に形式的な意味を添えたり、語の品詞性を決めたりして、接頭辞と接尾辞があります。例えば、「菓子・忘れっぽい・無意味・理論」の下線部です。「意味」は名詞ですが、「無意味」は「無意味な論争」のように形容動詞になり、接辞「無」が付くことによって語の品詞が変化したわけです。これが語の品詞性を決める接辞の機能です。そして、接辞と語基で構成されている語を「派生語」といい、複合語と派生語を合わせて「合成語」といいます。「語構成」は、合成語の構成に関わることで、その語がどのような形態素で構成されていて、それらの関係はどのようになっているのか、また、形態素と語全体の意味関係はどうなのかということを問題にします。

  次に、「語を語基と接辞に分析する」ことによって、「未知語の意味を推測する」というストラテジーの例を示しましょう。まず、英語の例ですが、unnaturalnessが未知語でも、形容詞natural(自然な)を知っていて、否定の接頭辞un-が付いてunnatural(不自然さ)となり、それに名詞を作る接尾辞-nessが付いてできた語であると分析できれば、unnaturalness(不自然なこと)の意味は推測できるはずです。これが、語構成の知識を生かした未知語の意味推測の例です。日本語では、「反社会的勢力排除条項」を例に考えましょう。母語で漢字を使用していない非漢字圏日本語学習者にとっては、漢字の習得は相当の困難を伴うと言われています。例のように10字もの漢字で表された合成語の意味は、語構成の知識がないと理解が難しいものです。まず、語を分析するための語構成の知識としては、次の3つが必要となるでしょう。

  1. 二つの語基で構成される漢語(二字漢語)は、一つの意味を表す。
  2. 「反-」は「…に反対する」の意味を表す接頭辞、「-的」は「…の状態の」などの意味を表し、ナ形容詞(*形容動詞のこと)を作る接尾辞である。
  3. 合成語全体の意味と品詞性は一番右側の語または形態素で決まる。

  これらの知識に基づくと、「反/社会/的/勢力/排除/条項」と分析でき、合成語の中心の意味は「条項」であり、品詞は名詞ということが分かります。また、語基や接辞の結びつきが分かれば、「社会に反するような勢力を排除する条項」という全体の意味を推測することができるでしょう。

  しかし、日本語学習者に必要な語構成の知識については、まだあまり研究が進んでいません。日本語の語構成研究とともに、今後の進展が期待される分野と言えます。