学科主任より・史学科の特色・沿革

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学科主任より

現代社会と歴史学

史学科主任 安村 直己

 歴史学は「不要不急」の学問ではありません。みなさんが史学科に入学されたら、歴史学の有用性を4年間かけて学びとり、社会に出てその成果を活用してほしいと思います。

 2021年夏、東京では緊急事態宣言が出されたにもかかわらず、人出は減らず、新型コロナ感染拡大が続きました。多くの人が普段通りに外出してしまうのはなぜか。その理由の一つは感染症対策に対する不信感ではないでしょうか。不信感は、対策が密室で決められ、その過程は公開されず、しかも文書で記録されないことから生じるのだろうと思います。根拠も示さず、会食や県境を越えた移動を控えるよう要請する一方で、五輪は安全に開催すると主張しても、ひとはなかなか納得しない。適切な対策は、過去についての正しい認識と、その共有を通じてしか打ち出せないということでしょうか。

 過去についてのより正しい認識への到達と共有のための方法と態度を育むのが難しいからこそ、歴史学はそれを目的とします。不要不急どころではない。しかも、この方法と態度とは、社会の様々な場面で応用可能な、生きるための「基礎体力」となるのです。

 もちろん、歴史学には自らの知的好奇心を満足させるために研究するという面もあります。400年前のメキシコの小さな村の未亡人がどんな困難に直面したのか。世界中に散らばるピースを探し出し、図柄をあぶり出す作業はスリリングですが、短期的な実用からは遠い。でも、こうした問いに取り組むなかで私たちは、自分が知りたいことを伝える文書や物になかなか出会えず、悔しい思いをさせられ、その度に50年後、100年後の研究者たちがいまの日本を研究するときには同じ思いをさせたくないと考える。だから、文書や物が適切に作成され、保管され、公開されるためにも、日々努力し続ける。歴史学的好奇心と有用性とは両立させられるのです。

 歴史を研究していて痛感するのは、ひとは失敗するということ。でも、失敗を記録し、後世に伝える勇気さえあれば、遠い子孫たちは同じ失敗を回避できるかもしれない。他方で歴史は、いまとは異質な過去があったことも教えてくれる。こうして歴史は、私たちを閉じ込める牢獄から、いまとは違う未来を構想し、創り出すための出発点へと変わる。

 私たち史学科スタッフ一同は、過去の特定の出来事の謎にこだわる人も、社会を変えたいと思って歴史に学ぼうとする人も、歓迎します。それは、歴史学のこの二重性を大切にしているから。みなさんといっしょに学べる日が来ることを願っています。

史学科の特色

本学の史学科は文学部の中に置かれています。確かにギリシャ語の“historia”は英語の“history(歴史)”と“story(物語)”の語源であり、フランス語の“histoire”はいまでも両方の意味に使われています。それだけ人間の歴史には物語性があるのでしょう。しかし、歴史学はれっきとした科学(scientia)のひとつであり、人間とその社会の背後にある真理を明らかにする学問でもあります。

歴史学が人文・社会科学の中で最も実証的な学問であることはよく知られています。動かしがたい事実に基づいて、物事の是非を判断したり、自分の意見を述べたりすることは日常生活でもよく行われていることです。難解な歴史史料との"格闘"の経験はきっと、皆さんの将来の社会生活に役立つことでしょう。

人は誰でも自分の幼い頃に対して愛着と郷愁をもっています。歴史に対する愛着とロマンも本能的なものといえるでしょう。それはまた歴史研究の重要な出発点でもあります。しかし、歴史を学ぶ目的は、ただ、過去を過去として学ぶのではなく、現代の社会をより正しく理解することにあります。我々の生きている社会は日毎に複雑さを増し、否応なしに緊密な国際関係の中に置かれています。我々には世界の歴史の動きについて偏らない知識と異文化を正しく理解し、受け入れる広い視野が求められています。

このように、過去の歴史を通じて人間とその社会についての広く、深い理解力を養うこと、それが本学の史学科の基本方針と言えるでしょう。

「歴史学の対象はあくまでも人間たち(les hommes)である。特徴的な風景、人々が用いた道具と機械、冷淡きわまる文書と無味乾燥な制度、その背後に歴史学が把握しようとするのは血肉の通った人間たちである。」

沿革

1968(昭和43)年4月誕生した青山学院大学史学科は、2018年4月、50周年を迎えました。この50年の間に、史学科から7千名近い卒業生が巣立ちました。

 日本における歴史研究の専門領域は、一般に、日本史、東洋史、西洋史、考古学に分かれています。これらの専門領域は、それぞれ異なった史料や手法によって研究を進めており、自ずと独立した気風を持っています。
 そうしたなか、青山学院大学の史学科は、50年前の創設の時から、「世界的視野をもつて新しい研究・教育の場として史学科を発展させ、東西文化交流の面においてその特徴を発揮させ、史学の発展に寄与し、歴史的教養豊かな学生の教育を目ざす」(「文学部史学科増設届出書」)という理想を掲げてきました。
 すなわち、青山学院大学史学科は、研究の基礎として日本史、東洋史、西洋史、考古学という専門領域を維持しながら、世界史的な視野を重視して、領域を超える学際的な学問の場として、学科の発展をめざしています。

 現在の史学科は、こうした創設時の理想に近づくための努力の上に立っています。一年次には、各専門領域の概説を学び、その中から各々が興味を持った分野を選択して、研究を進め、4年間の研究成果として卒業論文を執筆します。その間、選択した領域や時代を超えた疑問をもった時には、柔軟な対応を教員がとれる体制となっています。また、創設時から続く、研修旅行は、現地に行って実物に触れることを通じて他者との対話の良いきっかけとなるでしょう。

 史学科で学ぶ4年間は、急激に進む国際化と情報技術の発展により、大きく変化する現代社会に対応するための知恵を育むことになると、確信しています。
 これまでの史学科の卒業生がそうであったように、先人が積み上げてきた豊かな知識や伝統を学び、それをもとに社会で活躍しようとする意欲ある皆さんと共に学び、研究を進めることを、心より楽しみにしています。


1968年 史学科設置。学生・大学院生を中心とする研究誌『史友』を創刊。

1969年 『青山史学』創刊。

1972年 大学院文学研究科史学専攻 修士課程設置。

1974年 大学院文学研究科史学専攻 博士課程設置。

1997年 芸術史コース設置。

2007年 史学科40周年を迎える。

2012年 芸術史コース廃止。

2018年 史学科50周年を迎える。

現在に至る。