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『失われた時を求めて』を読む

眠りにつく人間の、あるいは暗闇のなかで突然目覚めて時間や自我の感覚を無くしている人間の意識が語られることで、物語は始まります。主人公であり語り手である「私」の物語ですが、「私」とはマルセル・プルーストであり、読者が小説のなかに見出すべき「私」をも意味します。プルーストはこの小説のなかで、本を読んでいるとき、読者は自分自身の読者であると言っています。つまり読書によって、それまで気付くことのなかった自分の内面にあるものが見分けられるようになるというのです。これは読書という行為一般に関するプルーストの鋭い考察であるとともに、彼の作品がそのような意図をもって書かれたものであることを明かしています。この小説はしたがって、読み手が異なれば、まるで別の作品のような印象をあたえるでしょう。ある人たちにとっては、恋愛と嫉妬の描かれた心理小説であり、他の人たちにとっては、時間という主題をめぐる哲学的小説であるかもしれません。また、絵画や音楽といった芸術作品に関する批評に魅了される読者もいるでしょうし、ドレフュス事件や第一次世界大戦など社会へと向けられたプルーストの鋭い視線に注目する読者もいるでしょう。

私たちは時間と労力をかけて、じっくりと自分の内面へと降りて行って、プルーストが意図したようにこの虚構の世界を自己の体験としましょう。

今年度は『失われた時を求めて』の第三巻、第二部「ゲルマントの方 II」の後半を以下の三つの箇所を中心に読んでいます。

  1. 目の錯覚を再現する」という方法で描かれた架空の画家エルスチールの作品が、
    アングルやマネといった実在の画家たちと比較される部分。
  2. 主人公がシャルリュス氏を訪ねる場面。同性愛と世紀末のデカダンス。
  3. 赤い靴のエピソード。社交界の華やかさと虚しさが見事な筆致で描かれた『ゲルマント II』の最後の場面。 青年は憧れの世界に何を見たか。第一巻、第二部「スワンの恋」の続編として読むこともできる部分。

受講生がプルーストの長文を読解できるように、初めは丁寧に指導しています。比喩や暗示に満ちた文章をじっくりと味わいたいと思います。また、この小説に関連したテーマを選んで発表もしてもらっています。

 
 
 
(C)2003-2004 Aoyama Gakuin University