授業は、ディドロ作品の精読を中心に進むが、通り一遍の訳読作業にとどまらないのがこのゼミの面白いところだ。というのも、先生はあらゆる所で時間の赦す限り〈何か面白いこと〉を語ってくれるからだ。井田ゼミ最大の特徴であり最大の魅力がここにある。われら生徒は、先生の言葉に耳を傾けるだけ で、
しらずしらずのうちに広大無辺な知の厳粛な綱渡りをしている仕組みになっているのだ
。
ディドロからソクラテス、ソクラテスから熊楠、熊楠から鴎外、鴎外から清張。また、ディドロからラモー、ラモーからピタゴラス、ピタゴラスからデカルト、デカルトからビュフォン。また、……訳読の授業の合間を縫ってこんな綱渡りが行われてゆく。これらは、昨年実際に先生の口から発せられた名前だが、こんなものは勿論ごく一部に過ぎない。先生の知の泉は涸れることをしらず、話は延々と広がってゆく一方なのだ。一体どんな脳をもっているのかしらと訝りながらも、ぼくは本当に沢山のことを教わった
。
また、時々行われるコンパも、とても楽しいものだ。アルコールが入れば、先生の脳はフル回転。哲学、文学、美術、音楽、サブカルチャー、さらにはスポーツに至る迄、綺羅星の如く居並ぶ話題は尽きぬ。まさに生ける『百科全書』、なんでもこいだ!
最後に、こんな素敵な井田ゼミを要約して C'est
l'élégance de l'homme moderne! とでもいっておこう。
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